ペットフードの誤解:総合栄養食は完全栄養食ではない!

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ねこ様をこよなく愛する博士(獣医学)。生まれてから今まで、ずっとねこ様と生活を共にしている。仕える愛猫は保護猫出身のスゥ(♀)とマイル(♂)。日本で最初にカリカリを製造販売した大手ペットフードメーカーの研究所に所属。同社に入社後、動物栄養学の権威とされるイリノイ大学のKelly S. Swanson博士の下に2度にわたって留学し、日本獣医生命科学大学大学院研究生を経て博士号を取得。専門は猫の栄養学。現在は同社に勤めながら、日本獣医生命科学大学動物看護学科の特別研究生として、ねこ様の感じるおいしさについて研究している。専門とする猫の栄養学のみならず、日本各地の歴史の中に埋没した猫伝承を掘り起こし、科学的根拠に基づいた信頼性の高い情報発信をしている。

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ねこ様のおいしい毎日を願って止まないみなさま、こんにちは。
みなさまが抱える猫ごはんの疑問について、お答えしていきたいと思います。

今回は、「総合栄養食」について注目していきます。

ペットフードのラベルに「総合栄養食」と書いてあるのを見たことがあるかもしれません。療法食以外のカリカリのほとんどは、この「総合栄養食」に該当します。

けど、なんだかよくわからない言葉ですよね。この文字を見ただけで「ぽーい」と投げ捨てた方もいるかもしれません。どうぞポイせず、お付き合いください。

簡単に言えば、総合栄養食とは「水とその食べ物だけで健康でいられる食事」のことです。子猫期や成猫期など、それぞれの成長段階ごとに十分な栄養が取れるように基準が決まっています。すべての成長段階で与えることができる「全成長段階(オールステージ)」も認められています。その基準をクリアした食事が「総合栄養食」を名乗れるのです。

極端なことを言えば、たった1種類の総合栄養食と水だけで飼育しても、栄養面で健康を害することがないと保証しているのです。ペットフードのラベルはよくわからない言葉だらけだけど、これだけバランスの取れたペットフードだよと、教えてくれているのです。

ここまで書くと、さぞかし総合栄養食がバランスの取れたよい食事であるように思えます。けれど、多くの方が誤解をしています。総合栄養食であるだけでは、良い食事とは言えません。ペットフードメーカーでも誤解している方がいるほどです。

この基準はあくまで成長に「必要最低限」の栄養が含まれているにすぎません。いわば、基準を満たして当たり前。猫にとってベストな食事ではなく、ベターなのです。

そのうえ、ペット栄養学は日進月歩。この「必要最低限」の量も常に変化し続けています。
日本のペットフードは米国飼料検査官協会(AAFCO)の基準に準拠しています。しかし、この基準の一部は研究データが不足しており、豚のデータを参考値としている場合があります。このように、完全に信頼できる基準ではないのです。特に猫の栄養学は犬に比べてデータが少なく、さらに曖昧さが目立ちます。ですから、数年ごとに栄養基準も改訂され、未だ「完全」にはなり得ていないのです。そのような理由から、総合栄養食を「完全食」と表現されることはありません。

このように、総合栄養食とは「総合的に判断して、最低限の栄養バランスが整っていると考えられる食事」という意味合いがあるため、よくわからない言葉となってしまったようです。

では、ねこ様にとって良い食事とはなんでしょう?

「よい食事」=「健康面で優れた食事」と定義すれば、総合栄養食であり、なおかつ科学的根拠に基づいた機能性成分が豊富に含まれた食事と言えるでしょう。また、「よい食事」=「猫が喜んで食べる食事」と定義すれば、特に日本の猫は魚が豊富に使われた嗜好性の高い食事と言えるかもしれません。

しかし、私は悩んでいる皆さまこそ知っていると思っています。一緒に暮らすねこ様はどんな味が好きで、体のどこが悪くて、こんなところに優れている。すべて一緒に暮らしている方しかわかりません。健康を守ることだけがねこ様の幸せではないと思います。なので、ねこ様にとって良い食事とは、それぞれのねこ様によって千差万別。ただ一つの良い食事などありません。ねこ様のことをよく考えて、ねこ様と一緒に暮らす皆さまが選んだ商品こそ、一番良い食事だと思っています。

逆に言えば、たくさんの選択肢を用意し、適切な商品に導いてあげられるメーカーこそ良いメーカーなのかもしれません。商品ラインナップが健康志向だけ、グルメタイプだけに偏りせず、いろんなカテゴリで研究を重ねるメーカーが理想的です。

いかがだったでしょうか。

和猫研究所は日本に暮らすねこ様の幸せを追求していきます。
ねこ様においしい毎日を。

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